2013/07/22

PART.25 世界平和と乱闘の申し子 メッタ・ワールドピース

ブザービーターのブログ

ビッグネームの名が連なった今年のFA市場は大きな賑わいを見せた。ボストンの中心ベテラン選手の完全放出、ドワイト・ハワードやアンドレ・イグダーラの移籍など、リーグを代表する選手達が新天地へと向かう中、メッタ・ワールドピースは故郷のニューヨークを新天地に選んだ。

クイーンズ区ロング・アイランド・シティ地区の公共住宅で育った彼は、俗に言うゲットー(貧民街)の出身である。お世辞にも治安の良い地域ではなく、バスケットボールも例外ではない。実際にメッタはコート上で人の死を目撃したこともある。彼はその世界で独自の価値観を育て、またその世界から全米を代表する選手へと成長した。

ボディービル雑誌に載る程メッタは逞しい体格を有し、201cmの身長に対し体重は119kg。7フッターのセンター並みの体重でありながらガード選手をマークする感性と機敏さを併せ持ったリーグ屈指のディフェンダーである。移籍先ニューヨック・ニックスのカーメロ・アンソニーは、恐らくメッタのディフェンスを最も嫌っていただろう。メッタのハイライトムービーにはカーメロを抑えたゲームが必ず入っている。

体格を活かしたフィジカルの強いディフェンスで相手選手にストレスを溜めさせるのがメッタのスタイルである。そのため小競り合いになることも多い。それが元で、2004-05シーズンにメッタのイメージを暴力的と固めてしまった出来事、NBA史上最悪の乱闘と呼ばれる事件が起きた。この事件の発端となったのはメッタだが、内容を大雑把に語るべきではない。「観客に殴り掛かった」だけではあまりにフェアではない内容である。

ピストンズのベン・ウォーレスに対しメッタがハードファールを犯した結果、口論になる間もなくベンがメッタを激しく突き飛ばした。これにより乱闘が発生。暫くして乱闘は治まり、メッタもその時点で敵意を向けるのを止めていた。しかし、観客の1人がメッタにビールコップを投げつけたことで事態は最悪の展開に転がってしまった。激情したメッタは客席に乗り込み観客に掴み掛かる。そこに周りの観客や積極的に殴り掛かったスティーブン・ジャクソンが加わり大混乱。その混乱が収まったかと思いきやコートに返されるメッタを後ろから殴る男が出現。またも争いの渦は大きくなり、治まったかと思えばまたも観客がメッタを罵倒し悪化。これが正確な流れである。

この乱闘は何よりもその場にいた観客に問題がある。メッタに対しても残り全試合の出場停止の重い処分が下されたが、わざわざ事態を悪化させたA.J.シャックルフォードと他数名の観客にピストンズのホームコートへの生涯入場禁止が言い渡された。観客へのメッタの行動は絶対に支持すべきではないが、コートで日夜全力でプレーしている一人の人間に対し、飲み物の入ったカップを投げつけるなど絶対にあってはならない。インタビューに対しメッタは「ビールを投げつけられたとき私の理性が崩壊した。ゲットーで育った人間であの侮辱に耐えられる人間はいない」と語った。ゲットーでなくとも、真剣な仕事に対し飲み物を投げられて許せる人間は少ないのではないだろうか。

彼は変わり者で、まったく売れないCDを販売し、その制作のために1ヶ月の休暇を要求したりもするが、気が狂っているわけではない。休暇の要求により2試合の出場停止となったが、結果メッタは1ヶ月の休暇を得ていない。ただ休みたい旨を伝えただけで罰則が発生したと言える。この辺りも理屈は分かるが違和感を感じる。

彼のバスケットボールは、一般的なそれよりも広い意味が含まれている。明らかに故意であるハードファールをすることもあるが、もしチームの勝利を本気で望むならメッタの行動はまったく理解できないというものではない。ましてや彼はプロスポーツ選手である。趣味のスポーツとは訳が違い勝利を前提に給金が発生する。ルールの中決められたファール数で相手に上手くプレーさせない。何の問題があるというのか。

問題行動の多いメッタだが、コービー・ブライアントはメッタの放出に反対した。昨シーズンにコービーの精神を唯一支えていたのはメッタだったように思う。チームの誰もがボールを持てばコービーを探したが、メッタだけがゴールを見ていた。確率はあまり良くなかったが、コービーのオフェンスチャレンジの回数と負担を意識的に減らしていたように感じる。

33歳になったメッタは故郷ニューヨークでも荒々しくチームに貢献することだろう。特に今のニックスに必要なのは輝かしさでなく泥臭さである。また優秀なシューターも揃っているので、昨シーズンのように大量の3Pを打つ必要もなく、本来の役割をこなせることだろう。

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カーメロに対する最も効果的なディフェンスですねぇ…暴力を容認するわけにはいきませんが、90年代の熱気と現代との違いは選手とゲームのタフさにあります。もしメッタがいなくなれば、NBAのバスケットボールはさらにクリーンに、さらに面白みを失ってしまうでしょう。
ロドマンの著書に「どの監督も俺が小競り合いを始めると顔を真っ赤にして「何をしている!」と叫んだが、フィル・ジャクソンは笑いながら俺を見ていた。なんてクールなんだと思ったね」という感じのことが書いてあります。メッタが小競り合いを初めてもフィルは笑って見ているでしょう。事実レイカーズは連覇しました。

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